2018年09月03日

セッションで新たな視点を得る

この週末、「リフレクティング」という手法を学ぶ研究会に参加してきました。
リフレクティングとは、簡単に言うと5~6人のグループでメンバーのうち2人が
話し手と聞き役になり、その会話について会話の間観察していた残りのメンバーが
コメントします。
最初メンバーがコメントする際には、最初の2人のうち抱えている問題を話した人が
会話に加わらず、ただ観察(聞く)します。そののち、その人も全体に加わり、
自分の会話について話されていたのを聞いて、どう思ったかなどを、グループと
話していきます。つまり3段階を踏んで完結することになります。

なぜわざわざこんなことをするのか?と感じなくもないのですが、あえてこうすることで
最初の2人が話していて気づかなかったこと、新たな視点を持ち出すことができるというのが
ポイントのようでした。
特に最初に話してだった人からは、「自分のことについて他の人が話しているのが
不思議な感覚だった」「自分について外からの視点を得たようだった」というような
感想が出てきました。

あまり予備知識も持たないまま参加し、初めての体験だったので最初は右も左も分からない感じ
だったのですが、終わって帰ってきてから、リフレクティングで起こることは心理療法
(カウンセリング)で起きることに近いかも知れない、と思いました。

個人の心理療法、つまり1対1の場合では、リフレクティングで言う最初の2人しか存在しません。
つまり別の視点を持ち込んでくれる他人はいないわけなのですが、その分セラピスト
(カウンセラー)やクライエントが別の視点を持つということを起こしていきます。

特にセラピスト側は、視点を変える、広げるといったトレーニングを十分に受けてきている
ことが条件となります。具体的には個人分析、教育分析、スーパービジョン、コンサルテーション
などを通じて、自分の盲点や弱点、自分の中のさまざまな部分について学び、十分に自覚
していることで、理想的にはあらゆる立場の人の体験に共感し追随できるようになります。
また、障害や精神状態についての知識や、治療についての理論、アプローチの知識なども、
当然役に立ってきます。

クライエント側で起きる変化としては、自分のこころの中のことを話していくことによって
自分の中にスペースができ、ひらめき、洞察が生まれるということが起こります。
この洞察が起こりやすく、かつそれを取り入れて実行していける人は、変化が早いと
言うことができるでしょう。
また、あまりセラピストが促さなくても、自分でどんどん進んでいったり、変化を起こして
いくタイプの人もいます。そういう人の場合、やはり聞き手を得ることや、話す場が
あることが原動力となっているようです。

なにかの問題が起こっていたり、危機的状況にあると、誰でもある程度感情的になったり、
視野狭窄を起こしてしまったりします。そして、これしかないという方法や道が不可能なもので
あっても、しがみついていることが多いのです。

セラピストの役割は感情のインパクトを和らげ、その思い込みやこだわりから解放してやり、
ほかにも方法があるということに目を向ける・目を開くことを可能にすることです。
実際、「1つしかない!」という状況下でも、クリエイティブに考えていくと2つ3つどころか、
5つ、6つくらい選択肢が出てくることもよくあります。

一時的な状況でなく、育った家庭や状況のせいで、比較的狭い範囲でしか考えられず、
すぐに絶望したり、うつっぽくなったりする人もいます。
その場合はじっくりと時間をかけてそうした視野の狭さや可能性の少なさを改善していくことになります。

リフレクティングで感じたもう一つの共通点は、「変化の大きさ」です。
変化があまりに小さすぎると(まったくないということは実はないので)、誰も気づきません。
セッションで言えば「なんで来たんだろう?」と思ってしまうような状況です(そういう
セッションも特に長期の場合、あり得ますが・・・)。
あまりに大きすぎると今度は、たとえそれが必要な変化であっても、本人が受け止めることができず、
圧倒されてしまいます。それでは元も子もありません。

心理療法での変化がときとしてじりじりとするほどゆっくりだったり、なかなか起こらないのは、
本人の中で自分の人格を守るための防衛が働いているのも一因であり、それはまったく理にかなって
いるのです。「抵抗」と呼ばれているのがそれのことです。
必要であれば、人格はゆっくりと変わっていくことも可能ですが、「一夜にして」変わるように
変わることは治療過程ではあまりない方が望ましいと言えるでしょう。

「一夜にして」のように見えることでも、実は本人の中で十分準備ができていたか、あるいは
長い間熟成されていたということなのだと思います。

一方、トラウマなどのネガティブな体験は、「一夜にして」人を変えるパワーを持っています。
それを同じように治療で繰り返すわけにはいかないのです。

ということもあり、セッションで起こる変化は気づくことができるレベルのものでありながら、
物事をひっくり返すような大きすぎるものではないものが適切ということになり、これをモニターしたり
加減したりするのも、セラピスト側の役割になります。インパクトが強すぎる場合のフォローも
できるだけします。

もちろん、すべてがコントロールできるわけではありませんが、十分や知識や理論、臨床の経験、
そして自分についての知識によって、適当な加減というのが可能になってくると思っています。

リフレクティングも心理療法も「なにかの問題があり、その解決に向けて変化を起こす」という点では
共通しているので、そのほかにも共通していることがあっても、不思議ではないのかもしれません。