2019年03月30日

カウンセリング・心理療法 基本のき

最近、ハイブロウな? というか専門的な記事も投稿していますが、この辺で「基本」について書いておこうと思いました。カウンセリングや心理療法について、聞いたことがあったり漠然としたイメージはあったりしても、正確に知らないという方が多いのではないかと思います。そのため、要らない不安を抱いたり、疑ったりすることも多く、せっかくの援助を利用してもらいにくくなっているという側面もあるかと思います。

(1) まず、カウンセリング・心理療法はなんでも話していい場である、ということ。
基本的に人には(家族、友人など)話しにくい話をする場ではありますが、そうでなければいけないということでもありません。プライベートな話、家族内の問題、犯罪や被害がらみのこと、病気や障害のことなどは、これまで相談を受けてきた中ですべて含まれていると言っていいです。「こういう考えや気持ちを話しては(考えては・感じては)いけないのではないか」、というのもありません。

(2) (1)を可能にするために、守秘義務という絶対的な原則があります。これは、クライアントが話したことはセラピストのオフィス内に留まる、ということです。記録はつけますが、それも厳重な管理下に置かれます。人にその人のことだと特定されるような形で話が伝わることはありません。これはカウンセリングを受けることについてよく思わない周囲の人からクライアントを守るためでもあります。

(3) クライアントが話した内容、感じ方、考え方などについて批判されることがないようにセッションは運ばれます。そのため、自由にこころの中にあることを探索したり、想像することや計画などを話すことができる、というのもカウンセリング・心理療法の場のユニークさです。

(4) とは言っても、最初からなんでも比較的自由に話せるという人は限られています。どうしても分かってもらえないのではないか、批判されるのではないかという疑いや怖れを感じているのがふつうではないかと思います。そのため、会うことを重ね、信頼関係を築いていきます。これを「作業同盟 working alliance」または「治療同盟 therapeutic alliance」などと呼んだりします。長期をおすすめするのは最初からそうしたいというよりは、どうしても深い問題があるときに最初からそれに取り組むのは難しく、信頼関係が育ってからはじめてそうした難しい問題に取り組んで解消していくことも可能になるためです。目安としては、人や状況によりますが、3~4ヶ月から半年くらいしてからがより深いレベルへ移っていける時期ではないかと思います。逆に怖れや不安から、その頃継続を止めてしまう人もいます。

(5) どこから話していいのか分からない、話があちこちに行ってしまう、上手く話せない、といった訴えや、心配はよく聞きます。しかしセラピストはそういう形で話される話を聞いて理解するプロであることを忘れてもらいたくはないのです。分からないところはどうしても質問することもありますし(そのまま聞き流していくというスタイルの人も多いですが、私はどちらかというと話の腰を折らない程度に明確にしながら先に進んでいくタイプです)、聞いて理解したことをまとめてフィードバックするようにもしています。フィードバックによって、話した人(クライアント)もこういうことを自分は言っていたんだ、ということが客観的に把握できたり、逆にセラピストの理解がズレているときには修正やつけ足しをすることもできます。こうして、相互的な形であってこそセラピーは進むと言えるでしょう。

(6) そして、これも誤解はあると思いますが、セラピストはあまり話しません。これはクライアント独自の世界や発達・成長を最大限に尊重するためで、余計な「入れ知恵」をしないためでもあります。十分に準備が整っていると思われるときや、クライアントに自分で考えたり動いたりする力が十分にないと思われる場合には具体的な提案をすることもあります。うつであったり、精神の活動が活発でなく停滞してしまっているタイプのクライアントさんには、私は働きかけ「ウォームアップ」(文字通り温める}するというスタイルをあえて取ることが多いです。そうすることによってコミュニケーションが少しずつ円滑になっていきます。

セミナーなどだと、いろいろ有益な話は聞けるのですが結局セミナーをやっている人の価値観や成功した方法を押しつけられることが多いという印象を拭えません。また、多少のワークがあったり、懇親会などがあったとしても、一対一でじっくり対話をするということにはなかなかなりません。一対一というのは個人療法の場合ではありますが(ほかにカップル、家族療法、グループ療法などもあります)。カウンセリング・心理療法は個人の悩みというところからスタートして、その人の可能性や潜在力を最大限に引き出していこうという試みであると言えます。