「国境の長いトンネルを抜けると雪国であった。」は、川端康成『雪国』のあまりに有名な書き出しですが、現在私たちは「長いトンネル」に入っているような状態です。外出自粛や緊急事態宣言によって、好むと好まざると日常の活動が抑制され、自宅に「潜伏」しているような状態になっています。外で思う存分光を浴びているというよりは、やはり物陰やトンネルの中のようなイメージかと思います。
「トンネルの中状態」が心地よい人も、心地よくなく不満やストレスに満ちている人もいるでしょう。人はもともと活動レベルや行動など、かなりの幅の個人差がありますので、すべての人に不満なく自粛していろと言っても所詮無理です。また同様に、今日(2020年5月25日)とも言われている緊急事態宣言の解除と、それに伴う自粛の緩和に関して、どう感じどう行動していくかについても、個人差があるでしょう。
「緩む」について苦手な人もいます。個人的には実は春先がそれなりに苦手です。暖かくなり厚着を徐々に止めて、開放的な気分になっていいのですが、どこまで薄着していいか分からない・・・という加減の問題もあります。寒くなっていくときに比べ、単に上に一枚はおればいいというのと違う気がするのです。
なんらかの禁止があったとき、その禁止を内在化してしまいいつまでも保ちつづける人もいます。専門用語を使えば超自我(自我の総体のうち、両親などから伝えられた社会規範、「あるべき」が内在化された部分)の強い人、と言えるでしょうが、仮に宣言が解除されてもそうした禁止の感覚や再度の感染拡大への怖れから、なかなか行動しない人も少なくないのではないでしょうか。それは、経済活動の影響ではない部分での、自粛の「副産物」となってしまうかもしれません。強い超自我を覆すには、自我を強化していく必要があります。自我とは、(精神分析理論によれば)「超自我=規範」、「イド=欲望、衝動」と外界の現実の間で調整を取り、こころをバランスさせる部分や機能を言います。
また、たとえば、不安障害やPTSDなどに苦しむ人は、現在の状況・現実ではなく、過去に体験した出来事への反応に現在も縛られてしまっている状態であると言えます。カウンセリングなどの安全な場において現在の現実をあらためて認識し、もう「解除」していいのだと理解することにより、変わって行くことができるのです。