2020年07月05日

カウンセリングで「過去を扱う」としたらそれはなぜなのか?

これはかなり根本的な問題です。よく、「カウンセリングは過去のことを扱う」=「後ろ向きである」、のように誤解されています。それに対し、コーチングは未来志向であるとか、ヨガは現在に意識を向けるとか、いろいろ言われています。カウンセリングに未来や現在はない、というのはまったくの誤解であり、カウンセリングをよく知らない人から出た言葉としか思えません。

しかし、矛盾したことを言うようですが、カウンセリングで過去を扱いがちなのは事実だと思います。それというのも、カウンセリングを訪れる人はにっちもさっちもいかなくなっていたり、目標や未来への希望、展望が見いだせなくなっていたり、自分や方向性を見失っていたりすることが多いからです。こうした状態の人にいきなり「目標を立てて」と言ってみても無理なことが多いです。また、就職や転職、結婚や出産など大きな転機でつまずく人もいます。 目標や展望がなく、次のステップに進むのも難しい―ではどうするか? 過去の体験や自分について、語ってもらうのです。

なぜなら、過去の大切な体験がある程度プロセスされていないとアイデンティティ(自分は何者か)が十分に形成されず、アイデンティティの確立が不十分だと長期的な目標を立てていくのが難しいからです。逆に言えば、目標が変わると、アイデンティティや記憶もそれにつれ編成し直されることが知られています。アイデンティティと思われるものが歪んだ形で、つまり偽の自己や鎧のようにして形成されてしまっている場合もあります。

また、子ども時代など、過去にいいなと思ったことや、夢や目標にしたいことがあったとしても、周囲から理解やサポートを得られず、埋もれてしまっている場合もあります。後になってからできることとできないことがあるのは事実ですが、興味や方向性のヒントになります。

つまり、カウンセリングで「過去を扱う」のは、それを安全な場所で十分にプロセスして、その人が自信を持って未来へ向けて足を踏み出していけるようにするため、ということができます。ある程度目標を立て、自立して未来へ向かって行ける人はそもそもあまり過去を扱う必要がない場合もあり、対してすっかり停滞してしまっていて過去を一通り、または忘れ去られたような出来事を詳しく見ていく必要がある人もいます。言ってみれば、「フタ」を開けてみなければ分からない、やってみなければ分からない、といった性質がどうしてもあると言えるでしょう。