妊娠・出産
2023年02月16日

周産期のトラウマ~コロナ陽性(疑い)による帝王切開について

ネット上の署名活動によって、コロナ禍がはじまって以来コロナ陽性や、コロナ陽性疑いのある女性の出産が著しくコントロールされている、ということを知りました。立ち会い出産が拒否されたり、個別にアセスメントをしたりすることなく自動的に(陽性または陽性疑いであれば)帝王切開を行われたりとのことでした。これは「由々しき事態」と言わなければならず、なぜならばそもそもが(コロナ禍であっても)妊娠や出産に関するチョイスは当の女性にあるべきだからです。

妊娠・出産は母となる女性本人の命や健康に関わることでもあり、医療が関わっていても「病気」ではありませんが、大きな不安を伴うことは事実です。妊娠期をどう過ごすか、どういう出産をするかなどを自分で決定していくことで、結果としてすべてが思い通りになるわけではないにしても、そうした不安やチャレンジをより乗り越えていきやすくなります。アメリカだと「バーシングプラン birthing plan」を自分で書いて、自然分娩か否か等をはじめ、自分で選んでいくというプロセスがあります。これは、より主体的なお産であるということも意味し、出産やそれにつづく育児というチャレンジに向かう女性をエンパワーするプロセスだと思います。

ところが、コロナ禍という医療システムにとってはストレス過多な事態であることを背景にしているとは言え、そのような選択権やコントロールが奪われている、というのです。

もちろん緊急帝王切開という、自然分娩を予期・予定していたのになんらかの医療的な事情で帝王切開に切り替える、ということは通常行われます。しかしこれは通常事前に説明されることですし、この場合は母子の健康・安全のために仕方ないという判断があってはじめて行われることのはずです。

このようなことに危惧を抱いているのは、オープンマインドの長期にわたるクライアントさんの中に実際、生まれたときの母子分離を経験された方々がいらっしゃることからです。もちろん、新生児ですから本人に記憶はないのですが、お母さんが話されたということでしょう。もちろんそれがすべての原因、というようなおおざっぱなことは言えないのですが、発達というものは下(年齢が低い方)から積み上がっていくものなので、そうした経験が「次」につながっていくわけです。

そんなことで? と思われるかもしれません。が、生まれてすぐの時期は愛着形成にも母乳育児の始まりにもとてつもなく重要な時期なのです。赤ちゃんが周りにいないことで、お母さんが育児に対する熱意を失ってしまう可能性もあります。これは本人が悪いとかではなく、むしろ生物学的なことと言って良いでしょう。赤ちゃんの側でも、まだ視力などは十分に発達していませんが、お母さんの声や匂い、心音などを通じて、「この人だ」ということを分かる手がかりはあると近年のリサーチでは解明されてきつつあります。お母さんの身近にい、親身に世話してもらうことが子宮から外界に放り出された赤ちゃんには大きな「慰め」となるのです。

また、出産直後のお母さんと赤ちゃんはいわば心理的に「一体」の状態にあるため、子ども側ばかりでなく、赤ちゃんを(医学的な理由であれ)「奪われる」ことはお母さんにとってもとてつもなく不安なことであり、トラウマ的な体験であると言っても過言ではないでしょう。トラウマ的であるということは、その体験の前後の状況や感覚を「つなぐ」ことが難しくなるということを意味します。トラウマには分断が伴うからです。

愛着上の問題を抱えた場合、その後その他の虐待などの被害に遭う確率も上がっていく可能性があります。これは、母子関係という安全を高めるシステムが通常通り機能していないために子ども側のリスクが上がる、ということです。(かならずそうなるというわけでもないですが。)

生まれてからずっと、一生つづくと言ってよい親子のメンタルヘルスや関係性ということを考えても、必要のない帝王切開や、妊婦の望まない形での出産は避けられるべきです。