2023年05月23日

心理療法に時間がかかるわけ

日本でも、以前に比べスクール・カウンセラーなどが各校に設置されたりと、カウンセリングや心理的な援助に馴染みが出てきたと思います。この間ワークショップをやりましたが、そのときも大学で臨床されている方が、学校でカウンセラーに会った経験のある学生が多少はいる、ということをおっしゃっていました。今後ますますそうなっていくのではと思われます。

それでも、「自らニーズを感じ、自ら通う」といったことは、あまり一般的になっていないように思います。本来は順番が逆で、こうした「個人開業」的なものが最初にあり、その後いろいろな組織や団体(学校や企業など)に持ち込まれるようになったのですが・・・やはり、学校や会社に「制度としてあるから利用する」というのと、「自ら探し、かつ自腹で利用する」というのの間にはギャップがあって当然と言えるかもしれません。

ことに、心理療法はちゃんと取り組むと期間がかかります。「どれくらいかかりますか?」と訊かれることもあるのですが、あくまで目安でしか答えられません。私も、企業カウンセリング(雇用者援助プログラム、EAP)で全6回といった、超短期のものもこなすことがあるのですが、あくまで触りであり、表面的なことにパッチを当てるだけ、というのに近いかと思います。

それに対し本腰を入れた心理療法の場合、年単位でかかることも稀ではありません。大人の場合、それまで数十年という単位で生きてきているわけであり、場合によっては「三つ子の魂」と言われるような、3歳くらいまでにいったん確立しているような対人関係のパターンなど(主に乳幼児期に親子間で形成されたもの)に、週1回(場合によってはそれ以下)といった間隔で取り組んでいくわけですから、考えてみれば無理もないのです。これも、かなり根の深い気分障害(主にうつだが多少躁的な部分も見られた)で、パーソナリティ障害的な面もある方から「どれくらいかかりますか?」と訊かれ、「最低2年」と言ったら、一笑に付されてしまったこともありましたが、2年でもきついかもしれません。

つまりは、いったんは生活やライフスタイルの中に「心理療法」を組み込んでいただくしかない、ということになるのです(ちょうどジムやスポーツ、ダンス、ヨガ、音楽教室などに通うような感じで)。当然、実際のセッション以外でいろいろ考えることや思うことも増えていきますが(そうでないと変化も難しいでしょう)、そこまで含め、心理療法のプロセスは起こっていきます。

この辺分からずに1回か数回来れば、あるいは「しばらく」(数ヶ月程度)通えばなんとかなる、というのを「保証」するのは難しいです。長い間の「問題」を「あたかも魔法のように」解決することを望んでいるように聞こえます。臨床家は魔術師ではないですし、たとえ最初臨床家が力や専門性を使ったとしても、いずれ自立してクライアントが自分でなんとかしていけるというのが、心理療法が目指すところです。

この点、やはり心理療法が盛んなアメリカ(や、その他の英語圏)の方はよく理解しているようで、最初からふつうに週1回こなしてきますし、「しばらく」(おそらく数ヶ月より長いが、セラピストが自分に合っていると了解した上で)つづけようと思っているようです。心理療法には文化的土壌も必要と言われていますが、こうした土壌が日本ではまだまばらにしかない、と言うこともできるかもしれません。そうした土壌を育てるべく、こうしてブログ(アメブロの方も含め)を書いているということもあります。なぜなら、心理療法というものが本当に人や社会を変える力を持っていると信じているからです。