子ども・子育て・発達
2023年10月10日

置き去りや留守番は「虐待」なのか?~埼玉県の条例の件

埼玉県の条例がさまざまな波紋・反響を呼んでいます。

親、特に仕事を持った女親(男親のこともあるでしょうが、子どもの世話にかかるところは女親がしているケースが多いだろうという筋で)にとって、「ちょっとした用」を足すだけのことで通報されたり、虐待の加害者呼ばわりされたり、果ては逮捕されたりではなにもできず、それこそ子育ての放棄につながりかねないことかと思います。

この条例については、シーン(状況)や子どもの年齢に応じて、細かく考え直すべきだと思っています。私的には(専門家として、ですが)子どもだけの登校や公園で遊ぶことは原則OK(小学校以上)、留守番や買い物等用事に連れて行くかどうかは状況・年齢によると思います。

たとえば、コンビニにちょっと車で停まって買い物するだけであれば、子どもを車内に残していてもおそらく問題になる確率は低いでしょう。「車内置き去り」が問題になるのは、もっと長時間(ショッピングセンターなどで、数時間戻らない、等)や気温などの問題が絡むときと考えられます。

留守番についても、子どもの年齢は考慮されるべきかと思います。感覚的には「小学生ならOK」と思えなくもないですが、未就学はどうかと思います。実際、(正確な年齢は忘れましたが)5歳、3歳で留守番をして火遊びをして亡くなった、というような悲惨な例がありました。子どもがある程度安全の判断ができること、危ないことをしないこと、なにか緊急なことが起こった際、電話・テキストや近くの人に言うなどのアクションが取れること、などが条件になるかなと思うので、低学年だときついのかもしれません。

仕事は別、と言うべきかと思っていますが(生活がかかっているので)、買い物などであれば子どもを連れていくのがいいかと思います。自分一人でのびのびとしたいのであれば、できればパートナーや家族、友だちなどに預かってもらえるときがいいでしょう(一時預かりや託児サービスなどがあれば、それも)。

一人でいられるか、一人でいる間なにかしていられるか(遊びや勉強等)は、年齢ばかりでなく子どもの性格や発達のペースにもよります。理想的には、個別判断なのかとは思います。

実際、「置き去り」がトラウマになっている方が、私のクライアントさんにはおられますし、多いのではないかと思います。幼い年齢で置き去りにされると見捨てられ感があり、それが大人になってうつ的気分や解離、不安など、さまざまなメンタルの問題として残ることいなってしまいます。

また、小学生のとき母親が仕事している間、ずっと夕食を一人で食べていたというクライアントもいました。この方も摂食障害、双極性障害など、いろいろな診断歴がありました。

同じような経験をしたからと言って、必ず「トラウマ」になるとか将来メンタルの問題、心理的障害になるかというとそうでもないのですが、やるべきではないことというのはあり、そうしたことや他のリスクが積み重なることによって、確率は上がっていきます。

さらに、置き去りや留守番は「虐待」なのか、という点ですが、「虐待」の中には「ネグレクト(無視、世話をしない)」というのがあります。「虐待」というと、何か悪いことを「する」「強要する」ようなイメージがありますが、するべきことをしないこと(あるべきものからのマイナス)も「虐待」に相当し、ネグレクトがそれに相当します。ネグレクトというとやはり赤ちゃんなどが放置されて生存しない、悲惨な例も思い浮かびますが、そこまででなくても適切な身体の世話してもらっていない、食事を与えられていない、また見逃しがちですが、親子で情緒的な(楽しい、悲しい、つまらない、面白いなどの感情・感覚を伴った)コミュニケーションが行われていない、ない、という場合にも該当します。

この点考えれば、子どもが「一人でいられる」ようになるのには案外、時間(年数)がかかるのです。単に母親であるというだけで良しとしない近年の女性たちにとって、また、誘惑と変化に満ちた世の中で、この年数は「長い」と感じられるかと思います。

今回のことは親の立場に立つか、子どもの立場に立つかで見えてくるる風景が違ってくるかと思います。その点が、子育てについては難しいところで、子どもの安全や成長を確保しつつ、かつ親にストレスがかかりすぎないという「バランス」が大切です。親と子どもの利害やニーズが食い違うのは、ある意味当然だからです。これも理想的には、親子のコミュニケーションを通じて、「どうする?」ということが決められていくといいのかと思います。

政治家ではないので、今回の条例制定の背景は知りませんが、おそらく「海外ではこう」みたいのを聞きかじった人が、日本のこれまでの状況や現状を一切考慮しないまま制定に走ったと思われます。法律が現実・現状から乖離していれば、不要に逮捕されたり犯罪者扱いされたりする人も増え、むしろ社会にとってはマイナスかと思います。不安で安心して子育てができないとか、だったら子どもは持たないのような人の数が加速していきそうな話です。

日本では、まだまだ旧態依然なところがいろいろ変えられている状況です。行政側も拙速に制度や罰則を作るのではなく、実際に子育てや生活している人ときっちりコミュニケーションをした上、徐々に変えていくというのがいいのではないかと思います。

また、今回の件は最近いろいろ子どもや心理的安全管が脅かされるようなニュースが多い中で、「反応」として起こったことかな、という気もします。子どもが自分たちだけで登校できたり遊んだりできるというのは、日本の「安全」の指標みたいなもので(世界ではそんなことをしていたらあっという間に連れ去られてしまう、という国がいっぱいあります)、それで子どもが得ているところも大きいと思いますが、不穏な事件も起きていない訳ではなく、これも難しいところです。